大阪高等裁判所 昭和37年(ネ)123号 判決 1963年10月30日
被控訴人 兵庫相互銀行
理由
被控訴人が相互銀行業務を営むものであり、控訴人大谷が昭和三〇年四月一日被控訴人大阪支店に外務使用員として雇われ、同年六月一一日職員たる外務員に任用され、昭和三二年一二月二一日懲戒解雇されたこと、その余の控訴人三名が昭和三〇年三月一〇日付書面で控訴人大谷が外務員となるであろうことを知りながら、被控訴人との間に控訴人大谷のために身元保証契約を締結して、同控訴人がその不注意又は不正行為によつて被控訴人に損害を与えたときは、控訴人中野政治郎、小池肇、中野末吉は、控訴人大谷と連帯してこれを賠償すべき旨約定したことは当事者間に争がない。
(証拠) によると、次の事実が認められる。
控訴人大谷は、被控訴人大阪支店業務係に属し、その主任沢本清次の下で、外務員として顧客に対する相互掛金(月掛)契約、各種預金契約締結の勧誘、集金の事務を担当していた。同控訴人は、昭和三二年八月頃沢本より被控訴人大阪支店に預金口座を有していた西山弘明に対する二五万円の貸金の斡旋を依頼されたので、自己の担当顧客である山路久市に対し同人の被控訴人大阪支店における積立定期預金三〇万円より二五万円を払い戻し、これを取引先に貸与されたい旨申し入れた。そこで山路は預金通帳と印とを同控訴人に交付したところ、同年九月中旬同控訴人は山路が右定期預金債権三〇万円を担保として二五万円の限度貸付を受ける旨の証書を作成して山路のために二五万円を被控訴人より借り受けたうえ、右二五万円を沢本に交付し、沢本は、西山よりその振出にかかる金額二五万円の先日付小切手(以下第一の小切手という。)を受領し、これを同控訴人に交付し、同控訴人は、右小切手を西山に対する二五万円の貸金債権担保として山路に交付譲渡した(山路は西山よりその譲渡を受けたものである。)。その際、同控訴人は利息一〇〇〇円余を山路に支払つた。他方、同控訴人は山路の被控訴人に対する借入金債務二五万円の利息一二〇〇円か一三〇〇円を被控訴人に支払つた。西山は第一の小切手支払の資金がなく、これを同年九月二五日付振出にかかる金額二五万円の小切手(以下第二の小切手という。)に書き換え、これを沢本に、沢本は同控訴人に順次交付し、同控訴人はこれを山路に提供したところ山路は第二の小切手をもつて自己の積立定期預金口座に入金されたい旨同控訴人に依頼した(山路は右預金債権を担保として被控訴人より二五万円を借入れたものであることを知らなかつた。)。そこで、同控訴人は第二の小切手を被控訴人大阪支店に持ち帰り、第二の小切手は沢本によつて西山の当座預金口座に振り込まれたのであるが、同控訴人は山路の前示入金指示に反して、山路の被控訴人に対する借入金債務二五万円の弁済に充てず、西山の右当座預金によつて現金化し、被控訴人より沢本を介して、第二の小切手の金額二五万円の支払を受け、これを自己の甲斐に対する手形金債務の支払にあてた。
以上の事実が認められる。
前示認定によると、第一の小切手はもちろん第二の小切手も、山路が西山より譲渡を受けて取得したものであり(ただし、第一の小切手は西山に返還された。)、山路は第二の小切手(金額二五万円、被控訴人自店払)を被控訴人に譲渡する旨控訴人大谷に申し入れ同控訴人は右譲渡の意思表示を被控訴人のために代理受領し(同控訴人が自己の名において山路より右小切手を譲り受ける旨の意思表示をした事実を肯認するに足りる証拠はない。)、かつ第二の小切手を預り(同控訴人は、山路より第二の小切手(以下右小切手という。)の現実の交付を受けておらず、その占有の改定によつて山路より交付を受けた。)、被控訴人大阪支店に持ち帰つたものであつて、遅くとも、右小切手が被控訴人大阪支店の事実支配内におかれ、沢本によつて西山の当座預金口座に振り込まれた時点において、右小切手は被控訴人に移転され(持参人払式小切手は、単なる引渡によつても譲渡移転される。)、被控訴人はこれを取得した。しかして西山の右当座預金口座には右小切手支払資金があつたのであるから、山路の前示入金指示に基づき、前示時点において、山路の被控訴人に対する借入金債務二五万円は弁済によつて消滅しており、したがつて、山路の積立定期預金債権三〇万円に対する担保権もまた消滅した。他方、控訴人大谷は、前示のように被控訴人の取得した右小切手を、沢本を介して、現金化したうえ、不法に被控訴人所有の現金二五万円を自己において領得したものというべきである(同控訴人の現金二五万円領得の事実は、同控訴人が右小切手を領得した旨の被控訴人の主張に包含されるものと解すべきである。)。
してみると、控訴人大谷は、不法に被控訴人所有の現金二五万円を領得して被控訴人に同額の損害を与えたものといわなければならない。
控訴人等は、控訴人大谷の、山路と西山との間の二五万円貸借の斡旋、前示小切手の現金化、二五万円の受領は、同控訴人の職務に属しないから、右損害は本件身元保証契約によつて担保賠償すべきものではないと主張するけれども、たとえそれが同控訴人の職務に属しないとしても、同控訴人が不法に被控訴人所有の現金二五万円を領得し被控訴人に損害を与えている以上、前示身元保証契約の約旨によつて担保賠償されるべきものと解すべきである。
次に控訴人等主張の更改の抗弁について考えてみる。前示認定によると、山路の被控訴人に対する借入金債務(いわゆる限度貸付)二五万円は、昭和三二年九月二五日頃弁済によつて消滅し、山路の積立定期預金債権に対する担保権は消滅したのであるから、被控訴人はこれを山路に払い戻すべきものである。控訴人等は、被控訴人の山路に払い戻すべき積立定期預金払戻債務については被控訴人の承諾を得て、控訴人大谷が二五万円を山路に支払うべき債務とし、同控訴人は山路との間にこれを準消費貸借に更改する旨契約したと主張するが、原審証人中野久子の証言中「中野久子は、(昭和三二年)一一月中喫茶店イタリアンで、控訴人大谷より「今、山路と話し、借用証を入れることによつて話がついた。」旨聞いたその日控訴人大谷から電話で「太田次長、井関立会いのうえ、借用証を入れることによつて解決がついた」と知らせて来た旨の部分は、同控訴人から伝聞したものであり、同控訴人の右伝言は信用できない。原審における控訴人大谷義一本人尋間の結果中「甲第三号証の作成については、もちろん山路は異存がなかつた。」旨の部分、当審における同本人尋間の結果中「同月二〇日頃か二五日頃被控訴人大阪支店で太田次長、井関係長立会いのうえ、控訴人大谷は山路に対し「私が使つた金だから私が働いて返す。」といつたところ、山路は了承した。」旨の部分は、信用できない。成立に争のない甲第三号証の同月三〇日付借用証には、控訴人大谷が山路に対し二五万円を借用する旨の記載があるけれども、弁済期日の記載や連帯保証人(二名)欄の署名押印及び山路の署名押印はなく、甲第三号証だけでは、山路が被控訴人に対する積立定期預金債権を放棄し(すなわち、被控訴人の山路に対する右預金払戻債務を免除し)、かつ同控訴人より二五万円の支払を受くべき旨承諾したことを認めることができない。原審及び当審証人山路久市の証言によると、山路は被控訴人の積立定期預金払戻債務を免除し、これを控訴人大谷に対する貸金債務に更改する旨承諾していないことが認められる。控訴人等の右主張は採用できない。
(証拠) によると、控訴人等は、前示身元保証契約において、控訴人大谷の被控訴人に与えた損害を賠償すべき債務は、控訴人等の連帯債務とする旨約したことが認められる。
してみると、控訴人等は、連帯して被控訴人に対し前示損害額二五万円及びこれに対する前示不法行為以後であり、かつ訴状送達の日以後である昭和三三年九月二九日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務を免れない。被控訴人の請求は相当。